錦江町役場・Relaxation Re.ASLEEP・地域おこし協力隊
田中 貴士さん・桑原 さおりさん・山田 有夏さん・水流 賢一さん
錦江町ローカルベンチャースクールは「チャレンジしたい人をみんなで育てる場所」。2024年に参加した四人で振り返り、語り合いました。
鹿児島県・錦江町で毎年開催されている「錦江町ローカルベンチャースクール(以下、LVS)」。
2024年度の「LVS2024」では、初めてLVSを経て採択され、着任した地域おこし協力隊が二人、誕生しました。LVSはこのまちに、少しずつ根づき始めていると言えるのかもしれません。
そんな「LVS2024」を振り返ろうと、いろいろな立場の四人に集まってもらいました。
まず、参加者から二人。
2024年に町内でエステサロン「Relaxation Re.ASLEEP」を開業した直後にLVSへ参加した、セラピストの桑原さおり(くわはら・さおり)さんと、兵庫県尼崎市出身で町外から参加して採択され、2025年5月に地域おこし協力隊として着任した、映像ディレクターの山田有夏(やまだ・ゆか)さんです。
そして、錦江町役場からメンターとして参加した二人。
産業振興課で畜産技師として畜産を担当する水流賢一(つる・けんいち)さんと、兵庫県からUターンして2024年4月から建設課に勤めている田中貴士(たなか・たかし)さんです。
座談会の進行は、LVSを運営しているエーゼログループ錦江町支社の支社長である大井健史(おおい・たけふみ)が務めました。
「好きなことで事業を始めませんか」に惹かれ、LVSに参加
— まず参加者のお二人にお聞きします。どうしてLVSに「参加しよう」と思ってくれたんですか?
桑原:私は2024年から活動を始め、2025年1月に自宅前にサロンをつくり本格的に開業したのですが、初めてのことだったので、まず何をしたらいいのか、どうやって集客をしていったらいいか、分からなかったんです。
特に困っていたのは集客です。本当に手探り状態で。当然ですけど、開業しただけではお客さんはまったくいらっしゃらなくて、営業しようと思っても営業の仕方が分からないし、SNSは苦手で、イベントに出店するやり方もわからない。経営者の友達や知り合いもいませんでした。
そうやってモヤモヤしていたとき、大井さんから「参加してみませんか」と声かけていただき、「自分の事業にとって少しでもプラスになるのなら」と軽い気持ちで参加することにしました。でも、「ローカルベンチャー」と聞いてもよく分からなくて、プレゼンもプレゼン資料の作成もしたことがなく、正直に言うと心配はありましたよ。

山田:私は大学でドキュメンタリー映像を制作し、卒業後は大阪のメモリアルビデオを制作する映像制作会社に勤めていたんです。もともと「ある程度ノウハウを学んだら独立しよう」と思っていましたが、自分で学んだほうがいいなと思うことがあり、退職を決めました。2024年の仕事納めの日に辞意を伝えたら、私の希望をふまえて年明けの始業から1週間後に退職できることになり、年末年始は今後のことを考えていたんですよね。地域に移住したい気持ちと、事業をしたい気持ちがありました。
鹿児島は訪れたことがあって、すごくいいところだったから、鹿児島への移住をキーワードに検索していたんですよ。ネットでLVSを見つけました。「好きなことで事業を始めませんか」っていうキャッチコピーを見て「何それ!」と思って、よく見てみたらLVSの募集で、「めっちゃ最高やん」と思って。
ノリと勢いみたいなところはあったんですけど(笑)、「LVSの選考に落ちてしまってもまた次を考えたらいいから、とりあえずチャレンジしたらいいかな」って。気構えすぎずに受けたって感じでした。

桑原:切羽詰まってるんじゃなくて、それがいいよね。
— LVSのエントリー受付最終日に連絡をいただいたこと、よく覚えています。
山田:あの日、連絡したのが夕方6時を過ぎていたので、募集は役場の方が担当だろうと思って「業務時間を過ぎているから、きっと無理だろうな」と考えていたんです。そうしたらその1時間後にはお返事をいただいて(笑)。
あくまでも選択肢の一つという感じで、「ここ落ちたらどうしよう」とか「受かったら起業しないといけない」とかは考えていませんでした。受かったらチャレンジできるし、受けてみよう、ぐらいで……錦江町には来たことがなく、名前も知らなかったです。
— 一方で役場のお二人はLVSにメンターとして参加することになって、率直にどう思われましたか?
水流:率直に言うと、ふだんは畜産を担当しているので、「断る勇気も必要なのでは」って思いました(苦笑)。それなりの思いをもって参加されている方たちに対して、私なんかが安易に言ってはいけないと。メンターとして良い助言ができる自信はなかったので、心配だったんです。でも実際に参加してみたら、とてもおもしろかったです。

田中:僕は役場職員1年目で、ふだんの業務は道路などのインフラ整備を担当しています。申し訳ないんですが、LVSのことは知らなかったんです。でもLVSの話を聞いて、「めっちゃいい取り組みだ」と思いました。人を応援するのが好きなので、僕の考えでいいのだったら伝えたいな、少しでも役に立てればいいな、と。
Uターンをしてから、こういう取り組みや夢や目標をもって活動している人に会える機会があまりなかったんです。僕はそういう環境が好きなので、参加者さんがステップアップできたらいいし、僕にとっても成長できる機会やし、僕の視野がパッと広がって「ぜひ参加したい」と感じました。

今の自分を肯定してもらえたLVS。前進の大きなきっかけに
— 山田さんは錦江町に来たことすらなかったのに、「行こう」と思えたのは、何かがあったんですか。
山田:当時は「鹿児島に移住できるかも」って思っていました。月曜にLVSにエントリーして、火曜にオンラインで説明を受けて、水木はプレゼン資料をつくって、金曜に会社を辞めて、土曜から錦江町へ行くというスケジュールで(笑)。
来てみて、緑が豊かで、海もすぐ近くにあって、自然環境がいいなっていうのはもちろんですけど、人に惹かれました。最終的に、人で選んだところがあると思います。
メンターの役場職員さんとお話できたことは、私にとって貴重な情報収集にもなりました。「こういうことをしたいと思ってるんです」って言ったら、「錦江町だったらこうですよ」とまちからの目線で答えていただけて、ありがたかったです。まちにどういう方々がいるのか見えました。
— 町内に住んでいて、すでに開業していた桑原さんにとって、LVSはいかがでしたか。
桑原:濃い時間でした。本当にすごい3日間だったんです、自分のなかで。お客さんや金額のことなど目標を立てたのですが、メンターの方たちからアドバイスをたくさんいただけました。経営者の方からお話を聞けたことも、よかったです。1日目にして「参加してよかった」と思って、声をかけていただいたことに、もう感謝しかないなぁと。

— LVSのとき、「私はいろいろと教えてもらえる場だと思って参加したんですけど、そこが大事なのではなくて、『大丈夫ですよ』って言って欲しかったんです」って、僕に言ってくれましたよね。
桑原:あぁ、そうでしたね。メンターの勝屋祐子さんが私のしてきたことについて「大丈夫だよ。やっていいんだよ」と言ってくださって。その言葉こそ、本当に欲しかった言葉だったなと思ったんです。山田さんはポジティブな人だけど、私は「仕事大丈夫かな」って心配になるときもあるタイプなので。おかげさまで、3日目のプレゼンでは「自分に必要なのは勇気だった」と晴れやかに発表できました。
— みなさん、LVSで印象に残っていることはありますか。
山田:二つあります。一つが、町長が3日間ともフルで参加されていたことです。町長が私のプレゼンを聞いて、感想もちゃんと言ってくださいました。あと、懇親会でまちに来たばかりの私が町長と同じテーブルで一緒にご飯を食べていて、都会の感覚からすると「この環境は何なんだろう。距離感すごい」みたいな(笑)。強烈なインパクトでした。
もう一つは、メンタリングで自分のコンプレックスを解消できたことです。私は、お金を稼ぐことにネガティブな印象を持っていて、「こういう文脈でこういうお金をいただくって、福祉的な意味でいけない気がするんですよね」と話したんですね。そうしたら、メンターさんが「どうしてお金を稼いだらだめなの。私は稼ぐことが大好きだよ。稼いで、そのお金を使ったら自分のパワーになって、またいいことができるんだから、お金って大切じゃないかな。私は好きって堂々と言うよ」といったお話をしてくださったんです。
それが衝撃的で、価値観を変えていただきました。気づかせてくれて、自分を肯定してくださった。「いいんだ……」と思ったら、もう涙がドワーっと出て。今はまだ模索している段階ですけど、どうしたら稼げるかなと素直に考えられるようになりました。

桑原:私が印象的だったのは、メンターの佐藤道明さんの「2〜3年後の結果を考えるより、5年後、結果は必ずついてくると考えたほうがいい。結果は遅刻魔だ」という話です。そういう類の話を聞くことは、それまでなかったんですよね。それを聞いて、心が軽くなりました。
水流:思いを言葉でうまく表現できないけれども、一生懸命伝えようとされていた参加者さんがいて、とても印象的でした。3日目のプレゼンでは、大勢いるなかで涙を流しながら、自分の思いを素直にみなさんに届けていて。話が上手な人よりも、すごく伝わってくるものがあって「かっこいいな」と思いました。そういう人をも受け入れるLVSが、まちにとって必要な取り組みだと思えました。
田中:印象に残ったのは、参加者さん全員、1日目と3日目の発言と顔色が全然違ったことです。1日目は本当に緊張されていましたけど、3日目は自信をもって気持ちを伝えていて、人は変われるんだなと分かりました。
もう一つ、最終選考会はすごい環境だなと思いました。役場、民間企業、銀行の方々が集まって、1人の方に対して真剣に話して、採択するんです。それが僕にとって、とてもいい経験になりました。僕もゆくゆくは何かをやってみたいなっていう気持ちが芽生えましたね。「役場職員だからできない」と考えるのではなくて、役場職員であってもそういう気持ちが大事だなと気付かされ、励まされました。

水流:メンターの方たちの姿も刺激になり、思っていることを豊かな言葉で伝えることに興味を持つようになりました。LVSが、堅苦しいスタイルではないのも良かったし、自分自身学ぶことがありましたね。
山田さんたちも、知らない土地に来るなんて、すごく勇気があるなって思いました。人生かけてくるわけじゃないですか。僕は子どもが3人いるんですけど、そういう「自分がやりたいことをやってみる人」に育てたいなって強く思いましたね。
桑原:そうですよね。私も、自分の子どもにはいろんな世界を見てほしいという思いがあります。

錦江町へ来て本当によかった。ぜひLVSに参加してほしい
— 参加者のお二人はLVSの後、事業や活動はいかがですか。
桑原:LVSでプレゼンしたときの資料を、たまに自分を見失ったとき、見直すんですよ。ありがたいことに、あのときに話したお客さんの人数が実現できているんです。ご縁もたくさんいただいて、今は鹿児島市内にも出張へ行かせていただいています。だから本当にLVSのような機会をいただけて感謝です。ありがとうございます。

山田:私は地域おこし協力隊として、PR動画の作成や、まちで生活する人たちの生きた証を映像で残すことで、地域に貢献できればと思っています。
水流:山田さんに聞いてもいい? 二つ、聞きたいことがあるんです。一つは、まちに来て約4ヶ月が経過した感想。もう一つは、やりたい事業に対して、国やまちの資金が投資されたプレッシャーが気持ち的にどうなのかなって。
山田:そうですね。まずは錦江町へ来て、本当によかったなって思ってます。
水流:長く住んでもいいまちだ、って?
山田:はい!
水流:あ、ほんとに! それはよかった(笑)。
山田:「着任後に地域の方たちに受け入れられなかったらどうしよう」という不安がすごくあったんです。頑張れって背中を押してくださる方たちはいても、実際にまちに入って「何しに来た」みたいな感じで見られていたらいやだなと思っていたんですけど、そんなことはありませんでした。「何しに来たの」「どこから来たの」と話しかけていただいたり、「今度こういう飲み会あるからおいでよ」「イベントあるよ」と誘っていただいたり。ネガティブなことは何もなく、関係性をつくれてきていると思います。
もう一つのご質問については、プレッシャーはもちろんあります。でもそればかり考えてしまうと、私は不器用な性格ですぐ空回りしちゃうので(笑)、考えすぎないようにしています。人のせいにはしたくなくて、「基本、9割9分は自分の責任だ」という思いでいて、何があっても「自分が」という主語でいると覚悟して来たので。不安に感じたときは人に話すようにしているんですけど、みなさんが「まずはまちの生活、楽しんでよ」と言ってくださるから、ありがたいです。
だからこそ、ちゃんと事業をやりたいなっていう気持ちにもさせてもらえていますね。どうやって事業にしていくかというプレッシャーは常に抱えていますけど、「貢献しないといけない」みたいなプレッシャーは今のところ感じずに過ごしています。

水流:うん、うん。私は生まれも育ちも仕事もずっと錦江町だから、あるものがもう「当たり前」で。LVSでいろんな視点を学んで、ビジネスのチャンスがいろいろなところにあるという話を聞いて、「おぉ、この山も何かお金になるかもな」と思うようになった(笑)。「当たり前」だったことが新鮮味を帯びてきて、そういったことも含めてLVSはおもしろいです。
田中:聞くだけではなくて、自分で体験したほうがいいですよね。だからもっと知ってもらいたい。LVSは本当に体験しないと分からないですよ。
— おっしゃるようにLVSは一言で言い表しにくいと思うのですが、友人や知人に「LVSって何? どのような場なの」と聞かれたら、どう答えますか?
桑原:簡単に言えば「地方で起業したい人が来るところ」ですかね。
山田:私は実際に聞かれたことがあって、そのとき「移住して事業をしませんかっていう選考会なんだけど、めちゃめちゃ濃くて、3日間で人生の振り返りとか、やりたい事業のブラッシュアップとかもできる。本気で自分に向き合ってくれる場所だよ」と答えました。「はじめまして」の人にも、こんなに向き合ってくれる環境なんだっていうのはすごく感じたので。
水流:「チャレンジしたい人をみんなで育てる場所」。選考会という形はあるから難しいけれど、メンタリングで何かきっかけになるものはつかめるんじゃないかなと思います。
田中:「人として成長したい、夢を追いかけたい人に、まちが全力でサポートする場」。本気で目指すんだったら、まちも本気で向き合うところだと思います。
— 僕は、LVSは「関わる全員で学び合える場だ」と感じています。何か答えを教えてくれるわけではないけれど、みんなそれぞれが受け取るものがある。そういう意味で「スクール」なんだろうと思っています。LVSは2025年度も開催されますので、注目していただけたらうれしいです。今日はありがとうございました。
