幸せな住まいづくりとは?株式会社巻組 渡邊さん講演会

2025.2.4

こんにちは!錦江町編集部です。

昨年、株式会社巻組代表の渡邊享子さんをお呼びし、「絶望的な空き家に光をあてる幸せな住まいづくりとは?」というテーマにした講演会が開催されました。

人口減少に伴って、田舎はもちろん、都会でも社会課題と捉えられている空き家。
実家が空き家になっているなど、身近に感じつつもどうすればいいかわからない方も多いのではないでしょうか?
課題が複雑に絡みあう絶望的な空き家問題に対して、巻組さんが取り組んでいること、そして私たちがこれからの未来を考える問いを投げかけていただきました。

巻組ができたきっかけ

巻組の拠点は、東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県石巻市にあります。渡邊さんは大学生で都市計画を専攻されており、ボランティアとして石巻に関わり始めました。当時人口が約16万人の石巻市に、26万人ものボランティアが集まっていたそうです。復興支援のために移住を希望する人が増えたものの、空き家は地元住民が優先的に利用され、移住者が借りられない状況でした。事業を始めたい人がいるのに住まいが足かせになっているのはもったいない。そんな思いから、地元の人でも使わないような空き家を改修し、シェアハウスにしていく取り組みとして巻組の活動が始まりました。

復興が進むと、今度は新築住宅やマンションが増える一方で人口は減少していくという状況が生まれます。いくら住宅を整えても、ライフスタイルをつくらないと人口は流出し続け、根本的に問題は解決しないのではないか。渡邊さんはそう思われたそうです。

巻組の事業紹介

そんな課題意識をもとに、現在巻組は資産価値の低い不動産を活用した賃貸経営を通じて、新たなライフスタイルを提案しています。
中でも「Roopt」は、東北地方を中心に約30件のシェアハウスを運営している取り組みで、1日単位で入居可能で自由なライフスタイルを提案し、リノベーション実績は50件以上にのぼります。

絶望的とも言える空き家を活用した新しいライフスタイルの例を、いくつか紹介してくださいました。

1.雑木林のほったて小屋からシェアアトリエへ
雑木林に囲まれ、玄関が道路に面していない絶望的な物件に、クリエイターの女性2名が入居。庭を耕し、DIYで展示スペースを作りながら、現在は6人でシェアハウスとして利用されています。

2.狩猟免許を持つアーティストの倉付きシェアハウス
賃貸物件で断られることが多い狩猟免許保持者の男性が入居。荷物がたくさん置いてあった倉庫を片付けてギャラリーに改装し、作品展示や販売を行う場として活用されました。

アーティストに向けて特別な案内はしていなかったけれど、廃屋に可能性を見出すクリエイティブな人たちが自然と集まってきたとおっしゃる渡邊さん。そうした多様なライフスタイルをつくる人たちがこれからの未来を作る人であり、不動産価値が低い地方の空き家こそ、自由にライフスタイルをつくっていけるため、次世代が暮らす価値があるのだそうです。

解決すべき空き家の課題

全国約900万戸になり、過去最高の増加率になっている空き家。
私たちは具体的にどうしていけばよいのでしょうか。解決すべき課題として、①相続、権利関係の整理、②資金調達の壁、③リノベーションコストの高騰、④運用の担い手不足など、複数の課題が複雑に絡んでいます。

新しい取り組み

巻組が行う新しい取り組みの1つに、不動産の「死因贈与」というものがあります。所有者は生前に賃貸として活用し、死後は巻組に譲るということを公正証書という遺言のような形で残し、空き家になるリスクを減らすという仕組みです。

2つ目は、住人参加型の運営モデル「DAO型シェアハウス」。DAO型シェアハウスとは、分散型自律組織(Decentralized Autonomous Organization)の仕組みを活用した新しい運営スタイルです。賃貸料を支払った人に発行されるNFT(デジタル証明書)が会員権となり、住人が自主的に運営に参加できる仕組みになっています。
今までの賃貸運営をより多くの人と参加型で運営することで、入居者の自己表現の機会をつくり、住居の価値が上がる可能性があると取り組まれています。

そして、そうした空き家に携わるクリエイティブな人たちのプラットフォームとして、クリエイティブハブという場所を開き、石巻を中心にコミュニティ作りにも取り組んでいます。
震災で介護や相続など辛い日々にいた方が、自分の時間を作るためにクリエイティブハブで水彩画を習い始め、人と交わることで美術館にも出展できるようになった方もいらっしゃるそうです。
自分の課題と向き合う舞台をつくることで、空き家がそうした内発的なクリエイティビティを刺激するきっかけとなり、「普通の人」がクリエイティブになっていく可能性があるとおっしゃいます。

次世代型の住まいとは?

渡邊さんのお話を聞き、住まいづくりにおいて大切なのは「建物」ではなく、そこでの暮らしの豊かさや幸せの積み重ねだと改めて感じることができました。錦江町でも、今あるものを活かしながら、それぞれが幸せを感じられるライフスタイルを模索していきたいと思います。