過去最大規模!? 「錦江町ローカルベンチャースクール2025」無事閉幕! 参加メンバーによるリアル開催レポ

2026.3.17

錦江町ローカルベンチャースクール(以下、LVS)は、今年で3回目の節目を迎えました。このプログラムが大切にしているのは、完成された事業計画の優劣をつけることではありません。志ある参加者たちが「なぜ錦江町で挑戦するのか」「何を実現してどうなりたいのか」と内側の動機を、徹底的に掘り下げることにあります。錦江町の役場職員や多彩なメンター陣が、大人の自分探しに本気で向き合ってくれる時間——起業支援というより、そんな言葉がしっくりくる取り組みだと私は感じました。

申し遅れましたが、私はLVS2025参加メンバーでこの春から錦江町に移住することになった、谷口由佳(たにぐち・ゆか)と申します!

私が錦江町を知ったのは、仕事で関わっていた自治体PRイベントがきっかけです。そこで偶然出会ったのが、錦江町で一次産業を中心としたマルチワーク事業を推進する錦江町MIRAIサポート協同組合の方でした。

「うちの町ね、ほんのこて面白かことをやってるんですよ!」

職業柄さまざまな地域の特色を耳にする機会があるものの、鹿児島にいる私の親戚たちと同じなまりで話すその方の熱心な語り口調が、強く心に残りました。

鹿児島生まれでありながらほとんど東京で育ち、錦江町のこともまったく知らなかった私。「いつか仕事で関われたらいいな」——そんなふうに思っていたはずが、巡り巡って2026年1月、私は自分の新たな事業プランを抱えて、錦江町の地に立っていました。

一次選考合宿キックオフ!競いの場から共に挑む場へ

会場は、地域活性化センター神川。廃校となった旧神川中学校を活用した地域の交流拠点で、どこか懐かしさを感じさせる空間です。けれど一次選考会初日、そこに流れていたのは、どこか張り詰めた空気でした。

今年の参加者は過去最大となる全14組。九州地方を中心に、全国から「好きなこと」や「やってみたいこと」を錦江町で事業にしたい方々が集まりました。町民としてすでに活動している方、昨年のLVS採択者、そして今年の新規参加メンバー11組。企業・団体として二人組で参加している方もいらっしゃいました。

私は近くに座った2、3名の方に声をかけましたが、自己紹介もそこそこに説明が始まり、あっという間に初回プレゼンテーションの時間になりました。

持ち時間は7分。事前に提出したスライドを使い、自分の思いと構想を語ります。この7分間が、想像以上に短いのです。事業内容を漏れなく説明しようとすれば当然時間が足りません。だからこそ、多くの人が「なぜ私が、錦江町でこの事業をやりたいのか」と自分自身の物語にフォーカスして発表を行っていました。

メンターの方々は、その姿を静かに、そして温かい目線で見守っています。そんな空気に触れながら、私は思いました。

「ああそうか、これが自己紹介がわりなんだ」

そう思った途端、ガチガチに固まっていた身体からようやく力が抜けました。「別に上手くやろうとしなくていい。今の私を見てください。そして、どうかこの事業の改善案をください!」——そんな開き直りにも似た覚悟が芽生えました。

実は私は、社会人になってから本格的なプレゼンテーションをほとんど経験していません。恥ずかしながら、ほかの参加メンバーの発表を聞きながら、「なるほど、これがプレゼンの型か」と心の中で唸っていました。同時に、自分のバックグラウンドと事業プランが一本の線で結びついていないことにも気づきます。私の中で、まだ自分自身の物語を掘り下げきれていなかったのです。

プレゼンテーション後は、メンターを含む5〜6名で輪になり、振り返りを行いました。

「この15分は、あなたのための時間です。みなさんは全力でこの人に協力しましょう。さて、あなたはこの時間で何を得たいですか?」

メンターの方に導いてもらいながら、自分のプランを磨くためにどんなフィードバックが欲しいのかを周囲に伝えます。そして、全員が本気でそれに応えてコメントしていきます。

実を言うと、最初に選考会場に入ったとき、私は「自分の態度一つひとつが、ジャッジされているのではなかろうか」と警戒していました。けれど対話を重ねるうちに、メンターの方々や、ライバルだと思っていたほかの参加メンバーは全員仲間なんだと気づきました。すると次第に、自分自身が取り繕った姿でいることが無意味に思えてきました。

「LVSは競い合う場ではなくて、協力しながら個々の課題に挑む場なんだ」

私の中で、ゆっくりと心がほどけていくのを感じました。


講義の時間「地域で挑戦するということ」

振り返りの時間を終えると、 続いて新田(しんでん) 敏郎町長(合宿1日目)、株式会社エーゼログループ代表取締役CEO・牧 大介さん(合宿2日目)による講義が行われました。

錦江町は町の面積の約76%を森林が占めており、林業が盛んである一方、再造林率の低さや担い手不足という現実も抱えています。町長は、具体的なデータを淡々と示しながら、「豊かな森林を次の世代に受け継ぎたい」と力強く語られました。さまざまな政策をご紹介いただく中で、私ははっとしました。それらすべてが、「錦江町の子どもたちに何を残すか」に焦点を当てたものだと感じたからです。

人口およそ6,000人の錦江町。多くの自治体が人口増加を目標に掲げる中、新田町長ははっきりと仰いました。「とにかく移住者を増やして税収を上げるという道を、錦江町はあえて取らない」と。

目指すのは、一人ひとりが幸せに生きられる町づくり。

そのために必要なのが「町民の皆さんの筋肉質化」だといいます。まずは、強くしなやかな意志を持った個人が町を支える土壌をつくり、次世代を育てる教育に本気で投資していく……新田町長が目指す未来と、LVSが描く未来は重なっているように感じました。

町の未来の話を聞いているはずなのに、私はいつの間にか自分自身に問いかけていました。

「事業をやること以前に、私はこの町で一体どうなりたいのだろう」

新田町長のお話を聞いているうちに、仕事のこと以外にも、思い描ける未来が広がったのです。

続いては、森林・林業、山村に関する新規事業の企画・プロデュースを各地で手がける牧さんによる講義。

「起業の醍醐味は、ワクワクとヒリヒリの間にあると思うんですよね」

成し遂げるのは難しい。でも、やれそうな気がする。その狭間に身を置くことこそが挑戦だと語られました。続いて、牧さんはあえて強い口調で言い放ちました。

「補助金ありきで設計された事業は自走しないし、進化していかないんです」

この言葉は、深く私の胸に刺さりました。どこか「支援してもらう側」の意識でここに来ていなかったか。 町に何を与えられるのかよりも先に、何を得られるかを考えていなかったか……。

講義後は、参加メンバーから「錦江町の解像度が上がった」「改めて、この町に住みたいと思った」という声が挙がりました。

 驚異の5時間超え!? 18名のメンターによる個別メンタリング

メンタリングは、30分×10セット。参加者がタイムテーブルに従ってメンターのいるテーブルを巡り、約5時間ひたすら事業プランについて語ります。

メンター陣には、ローカル起業の最前線を走ってきた実践者や、町を知り尽くした役場職員・町民の方々が集いました。まさに、教育や金融、経営、自己探求など、さまざまな分野のプロフェッショナルたちです。錦江町という現場と、ビジネスという視点の両方から、容赦なく問いが飛んできます。

最初の数セット、私はまたよそ行きの顔をしていました。

「考えてきたことを、ちゃんと説明したい。甘いと思われたくない」

気づけば、守りの姿勢で話していたのです。すると、チーフメンターの勝屋ご夫妻がこう仰いました。

「やりたいことの話をしているとき、エネルギーが湧き出ているのを感じるから、どんどん放出して。もっと無邪気に、楽しそうにしてたらいいと思うよ!」

よく「やりたいことは口に出したほうがいい」と言いますが、本当だなと思いました。無邪気に言葉にしてみることで初めて、思いの輪郭がはっきりしていきます。また、話を聞いてもらうことで、自分の存在自体も肯定してもらえた気がしました。

ふと会場を見渡すと、最初は固かったほかの参加メンバーたちの表情も、明らかに変わっていました。

晴れやかな表情をしている人。深くうなずきながらメモを取る人。中には、涙ぐんでいる姿も見受けられました。

濃密な時間を過ごし、私もほかの参加者も、すっかりへとへとでした。けれど同時に、みんな最初よりもずっと軽やかな表情になっていた気がしました。

事業計画が完璧になったわけではありません。でも、「私はこれをどうしてもやりたい!」と、するりと言ってのける自分がそこにはいました。

LVSでは、3日目の一次選考プレゼンテーションを終えると、当日中に結果が発表されます。企業の採用試験では不合格通知すら来ないことがありますが、これは一種の愛だなと思います。最後は輪になって座るメンターの方々を前に、一人ひとり温かいフィードバックをいただきました。

各々、自分と真剣に向き合う時間を過ごしてきた参加者たちの間には、自然と「一緒に何かできることはないか」「みんなで頑張ろう」という空気感が生まれていました。

過去最大の参加者数を記録した今年のLVSで、私は14組の素敵すぎる味方を得た気持ちでいます。みなさんとは、またきっと錦江町で会うのだろうな。そんな根拠のない予感がしているのです。

ブラッシュアップ期間から最終プレゼンへ

一次選考後、私は一気に現実へと引き戻されました。個人事業主の私は、合宿前にセーブしていた仕事を一気に追い上げなければならなかったのです。正直、「好きなこと」「やりたいこと」に向き合い続けるのは想像以上に骨が折れました。「今日もあれが解決しなかった……」という停滞感が何より苦しかったように思います。一次選考合宿で掴んだはずの手応えが、だんだんと失われていきます。だから、私は決めました。1日最低30分は新たな事業のことだけを考える!しかし、リサーチを重ねれば重ねるほど、現地に行かなければわからないことが増えていきました。

「家で唸っていても仕方がない。よし、確かめに行くぞ!」

そうして私は、山積みの仕事をスーツケースに詰め込み、「ゲストハウスよろっで」に10日間滞在することにしました。

よろっでフリースクールの子どもたちと節分の豆まき

町の中心地にあるその場所では、たくさんの出会いがありました。厨房を借りて自炊をし、毎日ほかの宿泊者や町民の方と食卓を囲みました。忙しない中で思いがけず得た日常感に、私はとても癒されました。何より嬉しかったのは、周囲の方々に「大丈夫?何か困っていることはない?」とたくさん声をかけていただいたことです。「あ、大丈夫だ。私きっと、ここでなら生きていける」と、そのときふと思いました。

全エネルギー放出済み、残量なし。正直なところ、ガス欠のまま走り続けた10日間でした。しかし、町の方々にお話を伺う中で、「採択されなくてもやるし、やれるな。きっと」と思うことができ、不思議と焦りはありませんでした。「きっと今、すべてを解決しなくてもいい。宿題は潔く持ち帰ろう」。そう腹をくくりました。

最終プレゼンテーション直前、頭の中はぐるぐると渦巻いていました。お恥ずかしながら、資料完成は提出期限ギリギリ。ある程度淀みなく話せるようになったのは、最終プレゼンテーションを迎える前日の深夜のことでした。けれど私は、「これは、あくまで中間報告だ」と自分に言い聞かせて登壇することにしました。正直、手応えはありませんでした。体力がなければ気力も削られるのだと痛感しつつ、この期間に積み上げた自信だけを胸に、初回と同じく「今の私を見てください」という気持ちでみなさんの前に立ちました。

ほかの参加メンバーたちも、一次選考合宿のときよりも落ち着いて発表に臨んでいるように見えました。それぞれが充実した準備期間を過ごしてきたことが伝わってきて、勝手に温かい気持ちになりました。

プレゼン後の審査時間中は、みんなでカードゲームをしながらたくさん語りました。

結果発表の瞬間、私は「さて、これからどう過ごしていこうかな」と考えていました。みなさんと話せたおかげで、採択の如何にかかわらず、次にやるべきことが自然と見えていたのです。

一人で悶々としていても、解決しないことの方が多い。だから私は、錦江町でみなさんと強くしなやかに暮らしていくために、困難を楽しめる余白を大事にしていきたいと思います。3年後、「何の役に立っているのかわからないけれど、あの人がいてくれてよかった」——そんなふうに言ってもらえたら。この町に、ふんわりと根を張っていきたい。それが、今の私の目標です。

執筆 | 谷口 由佳
写真 | 高田 昌宏・株式会社エーゼログループ