錦江町長・厚真町役場・エーゼログループ

新田 敏郎さん・宮 久史さん・牧 大介さん

錦江町の森林には、どんな可能性があるだろう? 町長を含め、森を愛する3人で語らってみました。(後編)

あなたが、最後に森へ行ったのはいつでしょうか。
身近な森が、今どのような状況なのか、知っていますか。
森は、一般の人にとって少し遠い存在になっているのかもしれません。

その距離感を縮めていくような、さまざまな試みや事業をしてきた森林のスペシャリストの二人がいます。
岡山県西粟倉村を中心に地域の森林や林業に長年関わっている『エーゼログループ』の代表取締役CEOの牧大介(まき・だいすけ)さん、北海道大学大学院にて森林科学を学び、現在は北海道厚真町役場で林務を中心に担当している宮久史(みや・ひさし)さんです。

二人を錦江町に招き、町の森林のこれからについて、新田敏郎(しんでん・としろう)町長と語り合ってもらいました。
記事「錦江町の森林で働きませんか。森林や林業は、自分が考えたことを実現しやすいフィールドかもしれない。」と合わせて、お楽しみください。

プロフィール

牧大介
『エーゼログループ』代表取締役CEO。京都府出身。京都大学大学院農学研究科で森林生態学を学ぶ。同大学院修了後、民間のシンクタンクを経て、『アミタ持続可能経済研究所』の所長として森林・林業の新規事業の企画・プロデュースなどを各地で手掛ける。2009年より『西粟倉・森の学校』を設立し、木材・加工流通事業を立ち上げる。15年に『エーゼロ(当時の名称は森の学校ホールディングス)』を設立し、移住起業支援事業、ローカルベンチャー育成事業、農林水産業の総合的な 6 次産業化などを行う。23年に両社を合併し、社名を『エーゼログループ』に。同年、錦江町に新たな拠点を設置し「錦江町ローカルベンチャースクール」などを行っている。

宮久史
厚真町役場 産業経済課 林業・森林再生推進グループ兼経済グループ職員。岩手県出身。北海道大学大学院にて森林科学を学び、持続可能な社会づくりを模索。博士課程修了後、札幌のNPO法人に就職。研究を続けてきた林業への関わりを増やすため、2011年に厚真町の林務職に転職。研究成果を現場に活かすことを目標に、林業振興施策や町有林管理、野生鳥獣対策に従事。18年の北海道胆振東部地震以降は、地震による崩壊森林の再生にも取り組んでいる。              

森には「生き方を開拓していくおもしろさ」がある

新田町長と、錦江町内の森を実際に見て歩いた牧さんと宮さん。全国各地の森を知る二人は、錦江町の特徴を体感したようです。さらに新田町長から、植林などを行う林業従事者の不足についても説明を受け、その課題についても一緒に考えてくれました。

牧:錦江町の森は道から近くて、比較的山も平らで、条件の良い場所があるので、決して林業的に悪いわけではないと感じました。採算が合いそうなところはちゃんと再造林すれば、50年後に備えるといいことがあるのではないか。もちろん未来のことは予想がつかないんですけど、良い山さえ持っていたら50年後に全部ロボットで伐採などをして換金できる世界になっているかもしれませんよね。

そんなふうに林業をちゃんとやる道もあるし、林業ではなく森は森として生かしていく道などもあるかもしれません。どうしたらいいか分からないからこそ、それを考える楽しみがあります。

宮:ありますね。九州はスギの生長が速いと知ってはいましたけど、実際に見せていただいて「この太さで30年か」と驚きました。スギは生産性が高いから、植えられるところは植えたいですよね。牧さんがおっしゃるように、50年後に今よりも木が必要になる可能性もあるので、林業する場所として残していく場所は決めて、施業を続けていったほうがいいと思いました。

牧:錦江町には、国内で春が早く、年間を通して比較的気温が高いという特徴もあります。以前2月に来たとき、菜の花が咲いていて、真冬の西粟倉村から来た僕は「もう春が来てる!」と驚いたんです。町内の農家さんは、その特徴を生かしていらっしゃいます。だから、例えば養蜂など森林にまつわることでも活かせるのではないかな、と。

宮:造林の時期は毎年11月から2月ぐらいですよね。それ以外の時期は、地域で人手が足りないところがあるなら、林業以外の仕事も組み合わせて錦江町で暮らしていきませんか?という求人をするのもありうるかもしれません。「錦江町で植え付け(造林)をしながら農業の収穫も担って、魅力的な生活をしませんか」という募集に興味を持つ方がいる可能性があるな、と。

牧:うん、そうですね。なりわいの一つとして木を植える。3ヶ月ぐらいは造林の仕事をして、他の時期は下刈りや、漁業のお手伝いとか。イノシシがいっぱいいるそうですから、狩猟もできますよね。林業の仕事をしていると地形が頭に入るし、獣道も見ますから、狩猟の効率は上がるはずです。地域の自然を理解してそれを生かしていくスペシャリストになるための修行として、とにかく冬はしっかり植え付けをやる。

一般的な猟期は冬だから植え付けの時期とかぶりそうですけど、錦江町には夏でも脂がのったイノシシがいるらしいので、夏に狩猟や解体をしてもいいのかもしれない。いろいろな仕事をしながら錦江町で生きていけるとなったら、「生き方を開拓していくおもしろさがある」とモチベーションが上がる人がいそうです。

自然に関わる仕事がいっぱいあるんだとしたら、その何種類かを自分の仕事にすることで、自分らしく生きていく道もあるんじゃないかなと。これは単純にチャンスです。僕が20歳ぐらいだったら錦江町に住みたいですね(笑)。

宮:以前、厚真町で林業支援員という林業をやる人を募集していたんですけど、あまり集まらなくて、ローカルベンチャーを募り育成するプログラム「厚真町ローカルベンチャースクール(LVS)」を始めてからのほうが、林業に従事する人が増えたんですよ。

その理由は、LVSの募集を見て「この期間は植え付けをやるけど、それ以外のときは木工とか自分のやりたいことができる」と思ってもらえたから。つまり、自分のやりたいことで満たしきれていない時間的な余白に、林業はうまくはまる場合が結構あると思うんです。ローカルベンチャーの文脈で募集すると、結果的に錦江町の林業を担う人が増えるかもしれないなと。

牧:2018年のLVSで採択されて厚真町で起業した『木の種社』の中川貴之さんは、製材工場を建てた今でも植え付けと下刈りの仕事を続けています。ベンチャー感があって、仕事を切り開いている人に見えますよね。生き方自体が新しい。たとえやっている作業が同じでも、理想の働き方があって、その仕事をしているから。

林業をしながら、自分のやりたいこともできるようになれば

錦江町の森林の未来をふまえ、二人からさまざまなアイデアも出ました。

宮:厚真町にも、林業をしながら水田を管理して稲作もしていた人がいたんです。稲作で忙しい時期は林業を休むんですよ。だから、おそらく植え付けや草刈りの仕事をしていても、田んぼはできると思うんですよね。錦江町の休耕田などを活用して稲作をしつつ、植え付けとか山のこともやるという暮らしのイメージもつくれると、「やってみたい」という人がいるかもしれません。お米をつくりたい人って一定数いると思うんですよね。

町長:お二人がおっしゃるように、生活のイメージがうまく描けないと、造林をする人の募集をしても、なかなか人が集まらないのかもしれないと思いました。錦江町では、これまで16名の地域おこし協力隊が着任してくれましたが、終了後の町への定着率は約半数なんです。彼らが町に入るとき、生活のイメージを提供できていたかというと、うまくできていなかった部分も多かったなと、反省の一つにあります。森の将来を考えるところから始めようとすると、どういう生活のイメージを伝えるといいのか……。情報の出し方は大事ですね。

宮:町内の林業会社さんと話してみたら、そこにヒントがあるかもしれません。その方々の1年の仕事の仕方を聞くと、錦江町でどういうことがあるかという参考になると思います。

牧:錦江町では植林で自治体からのサポートがあるそうなので、植林を得意とする林業系ベンチャーなどが錦江町に新しく拠点を置き、地域おこし協力隊を配置するという案はどうかなと。

宮:厚真町の民有林の管理を担っている『苫小牧広域森林組合』だと、組合に作業班がいないんですよ。ずいぶん前から全部の仕事を町内外の民間事業者に発注しています。そういう場合は、牧さんのアイデアも馴染みやすい気がします。錦江町の『大隅森林組合』さんが、植え付けや下刈り等の作業をどのように担っていきたいか確認しておく必要が有りますね。意外と新たな植え付け事業体を歓迎してくれるかもしれませんし。
牧:そうですね。

町長:明確にその話をしたことはないんですが、作業班は高齢化しているので、それを何とかしたいとは思っています。

牧:森林組合の請負として林業系ベンチャーが作業を行うことがOKだったら、組合として総事業量は確保できて、人手が足りないからできないところは解消されます。でも、それをするにはしっかり関係性がないといけないですね。

宮:僕が厚真町で意識しているのは、木材の需要がもう少し生まれれば、人が自然と集まってくるのではないかなということです。地道ではあるけれど、ひっくり返せるところからひっくり返していこう、と。

その一つとして薪の需要を増やそうと思って、薪ストーブを導入する際の補助金制度をつくりました。おかげさまで普及しつつあって薪の需要は増えています。そういう需要があると木材を加工する人なども自然と増えていくのかなと。

牧:あと、仕事として木を植えるとき、町の子どもたちにも来てもらって一緒に植えるのもいいかもしれません。木を植えるって森の始まりだから、それを体験するのは子どもにとってもいいことですよね。

僕は大学のときの実習を含め3、4回ほど木を植えたんですけど、植えた場所は今でも覚えていますし、生長は嬉しいものです。我々はそういうことを喜べる生きものだと思うので、そういう楽しみを子どもたちとも分かち合えたらいいですね。どんな森になるんだろうと、その先が気になって、森を気にする仲間が増えていく。いろいろな人を巻き込みながらやれるといいですね。

森に関わると、先人たちから受け取るバトンが見え始める

二人は、林業や森のどういうところをおもしろいと思っているのでしょうか。そんな質問から、話は森の未来につながる内容へと広がっていきました。

宮:林業というか森林管理という産業は、4次元的な産業だと思っているんです。どの木を切ってどの木を残すかという3次元的な想像力と、その結果、どう生長してどんな森になるのかという時間軸をもった想像力が必ず必要なんですよね。「この森は多分、前の人がこう考えてこの木を残してきているんだろうな」と先人の想いを受け取って、そして未来を想像して「僕ならこうしたいな」という感覚で見るんです。森の中で、昔と今を行ったり来たりしてるんです。

森林に対して自分だけのものという感覚ではなく「渡されて、渡す」ということ。森林に向き合うときには基本的に先人たちや森への感謝があります。歴史ある吉野林業で知られる奈良県・吉野へ行って、約300年前に植えられた木を見ると「先人の皆様!皆さんが受け継いできてくれた木がこんなに育っています!」と感謝が込み上げます。僕たちは、そういう木々をさらに将来へ渡していかなきゃいけないなって思います。

牧:森が好きな人たちの多くは、そういう感覚を持っていますよね。世代を超えていく大きな時間や、自分の生きる時間だけではできない何かを作っていくことにロマンを感じる。そこにバトンがあるんじゃないかという気持ちで見ると、見えてくるバトンがあって、また渡していけるバトンがある。林業にはロマンがあります。

森をつくり育てるって、素敵な価値を生んで分かち合っていける仕事なのではないかな。自分がそれをやると、先人たちから受け取るバトンが見え始める。自分で植えたという体験があると、そのバトンが見える。そうするとまた渡したくなるから。

宮:僕は天然林を歩くことが多いから、稚樹、つまり次世代の木があるかどうかを見ながら歩いています。次に育つ木があるか・ないかで、その森にどのように関わっていくかが変わってきます。次世代の木がないなら、切りません。森は更新されていくことが前提ですから。稚樹が有る場合でも、切り方は様々です。全部切る方法もあるし、一部を計画的に残す場合もある。それぞれ切った後の状況に応じて、改めて植えたり、草刈したり。大事なのは、次に育つ木があることです。

牧:自社で持っている山が西粟倉にあるので、試してみたいなと思っていることがあります。ちょっと質の悪い人工林があって、一部切ろうと思うんだけど、切ったときにできるだけうまく等高線と水平に、切らないほうの立っている木に引っかかるようにして倒す。生えている木が杭のようになって山の土が下に落ちないようにするんです。こうすると土壌流出が防げて、生態系として安定するんじゃないかなと思っています。

でも、鳥が来てうんちをしてくれたら(その中の)種も落ちるから、どんなふうに新しく種が来るかなと想像しながら、何本かは木を残そうかな、と思っています。スムーズに自然に天然更新が進むかもしれない。ちょっとでも次の森への気持ちが入っていると、切るにしても切り方や木の残し方が変わるはずですよね。

そのときに少し配慮があるかがとても大事で、そういう気持ちを持って森に関われるほうがその人もきっと幸せなんじゃないかな。森を育てていくんだけれど、そういう感覚や価値観、文化も育てていくプロセスなんでしょうね。

森に関わる生き方を選択する人がこれから新しく入ってきてくれると、将来、例えば「錦江町森の未来会議」みたいなものが開催されるときに、そのメンバーになるかもしれません。町長をはじめ、林業会社さん、森林組合さん、役場の職員さんと共に、みんなで森のことを一生懸命考える中で、「こんな森がつくれたらいいよね」から「こんな錦江町になれるといいよね」と町の未来を考えていける人も増えていくのではないかなと思います。

森を大事に思う二人のアイデアや意見に、じっと耳を傾けていた新田町長。今日の対話のなかで、何を感じたのでしょうか。

町長:私は先ほどのお話で出たように、「一緒に働きませんか」とか「一緒に町をつくっていきませんか」と情報発信をするときに一番大事なのは、受け手の方が生活のイメージをしっかりと描けることなんだなと痛感しました。これまでいろいろお声掛けさせていただいたけれども、錦江町でどういう生活ができるのか、本当にイメージを描いていただけたのかなと反省もしました。

これから2地域居住とか、錦江町にはないリソースを町外の方々に求めるときに、イメージを描けるような情報発信が大事だなと感じました。教えていただき、非常にありがたかったです。

宮さんの「森林管理という産業は4次元的な産業」というお話は、新たな気づきで印象的でした。戦後の造林期から木材需要の低迷などの要因で山から関心が薄れたていたものが、燃料材や旺盛な中国の丸太需要などの影響もあって、町内の山林の皆伐が進むようになってきました。一方、私が森林林業政策として考えてきたことは、近視眼的で「災害防止や水資源・環境対策のため伐ったら植える」という「ただそれだけ」しか見ていなかった気がします。先人から受け継いだ森の役割や森を介した人の営みを、まだ見ぬ将来の命へどのような形でつないでいけるのかを考えなければと感じました。

牧さん、宮さん、今日はありがとうございました。

取材・文 | 小久保 よしの